遺言書は、何の為に書くのでしょうか?
「終活の手続」に遺言というワードが出てくるくらいだから、『相続対策の為』に書くんだろうなあということは想像がつくかと思います。
では、そもそも『遺言書がなかった場合』は、どうなるんでしょうか?
遺言書が無い場合は、『法定相続人』が亡くなった方の遺産を相続します。
法定相続人とは?
法定相続人は、『法』律によって、『定』められた『相続人』のことです。
『相続する財産』の割合も法律によって決まっています。
では、誰が法定相続人になるのでしょうか?
法定相続人の候補者
次の人たちが法定相続人になる可能性がある人たちです。(以下、相続人候補者と呼びます)
- 被相続人(亡くなった方)の戸籍上の配偶者(妻・夫)
- 被相続人の直系卑属(子供、孫、ひ孫等)
- 被相続人の直系尊属(両親、祖父母、曾祖父母等)
- 被相続人の兄弟姉妹、甥姪
「可能性がある」という言い方をしました。
上記の人たちが常に相続人なる訳ではありません!
法定相続人には順位があります!
実は、法定相続人には順位があります。
先ほど相続人の候補者をご紹介しましたが、自分よりも優先順位の高い相続人候補者がいる場合、自分は相続人になりません。
相続というシステムは何故あるのでしょうか?
私は、亡くなった方が守るべき存在を亡くなった後も守る為にあるのだと思っています。
ですから、亡くなった方とより近しい人、言い換えれば、亡くなった方がより守るべき人が相続の制度によって優先的に保護されると考えていただければ、分かり易いかなと思います。
では、その順位はどのようになっているのか、ご紹介させていただきます。
配偶者は常に相続人になります!
被相続人(亡くなった方)に存命の配偶者がいる場合、その配偶者は相続人になります。
配偶者は、基本的には生涯生計を共にする相手なので、最も保護の要請が強いです。
よって、他にどのうような相続人候補がいたケースでも、配偶者は常に相続人になります。(※相続欠格、相続廃除というイレギュラーなケースは除きます。)
時々、「内縁の妻も相続人になれますか?」という質問をされますが、相続人になれるのは戸籍上の配偶者のみです。
現在の法律ではどんなに仲良しのパートナーでも籍を入れなければ相続人にはなれません。
籍を入れないことに強い拘りがある、又は個別の事情や現在の法律によって籍を入れることができないけれど、財産をパートナーに残したいという方は、必ず遺言を書いておきましょう。
被相続人に子供がいる場合、子供は常に相続人になります!
被相続人に子供がいる場合、子供は相続人になります。
(※相続欠格、相続廃除というイレギュラーなケースは除きます。)
独立した子供はさておき、まだ未成年の子供などは、配偶者と同じレベルで(場合によってはそれ以上に)、保護の要請が非常に強いです。
上の図では、被相続人(左上)に配偶者と子供二人がいますが、その全員が相続人になります。
因みに、遺言書がない場合に相続人がどのくらいの財産を相続できるのかということもケースごとに法律で定められています。(法定相続分といいます。)
配偶者と子供が相続人になるケースでは、法定相続分は配偶者が全財産の半分(上記のケースでは、4分の2)、残りの財産を子供の数で均等に割ります(上記のケースでは、それぞれ4分の1ずつ。)
「うちには娘と息子がいるけど、娘は本当によく自分の介護をしてくれている。逆に息子は連絡もよこさず、どこで何しているかもよく分からない。こんな状況で同じ遺産しか残せないのは嫌だなあ。」
という思いがある場合、必ず遺言書を残しておきましょう。
遺言書さえあれば、先ほどの法定相続分に縛られることなく、ご自身の希望の形で配偶者や子供たちに遺産を残すことができます。
被相続人よりも先に亡くなっている子供がいる場合で、その子供に更に子供(被相続人の孫)がいる場合、その孫も相続人になります!
物凄く説明的な見出しになってしまいましたが、そんな感じで続くのでご容赦ください(笑)
上の図では、お父さん(上段左)よりも先に、息子(中段左)が亡くなっています。
当然ですが、相続人よりも先に亡くなっている方は相続人にはなれません。
しかし、親よりも子供が先に亡くなっているケースで、亡くなっている子供に更に子供(被相続人の孫)がいる場合には、息子に代わって孫が相続します。(代襲相続といいます。)
上の図では、孫二人(下段の二人)が息子(中段左)に代わって相続します。
早くにお父さんを亡くしてしまった孫たちの生活のサポート(金銭的なサポート)をお父さんに代わっておじいちゃんがしていたと考えると、やはりおじいちゃんを亡くしたことによる孫たちの保護の要請は強いです。
このケースの法定相続分は、配偶者(上段右)が全財産の半分(8分の4)を、娘(中断右)が8分の2、残りの8分の2を孫の数で均等に割ります(8分の1ずつ)。
息子が生きていたなら相続していた財産を孫たちが代りに均等に相続します。
遺言がないケース、法定相続分として一応は相続する財産の割合が決まっていますが、通常のケースでは、相続人全員で遺産分割協議をします。
何故通常遺産分割協議をするのかというと、現金、預貯金のように割って分け合える財産であればいいのですが、不動産、車など、割って分け合えることのできない財産については遺産分割協議をしない限り、共有名義(みんなで所有権を共同で持ち合う)になってしまいます。
例えば上の図のケースで不動産が共有名義になった場合、母8分の4、娘8分の2、孫(娘からすると甥姪)8分の1ずつという非常に奇妙な状態になってしまいます。
こういう共有状態は新たな争いの火種にもなりかねないです。
これを解消するためには遺産分割協議をすることが必要なのですが、相続人の中に未成年者がいる場合は手続きが煩雑になってしまいます。(未成年者が自ら遺産分割協議をすることを法律が認めていない為、裁判所に特別代理人の申立てという手続きをしなければなりません。)
上の図のようなケースでは、孫が未成年者ということもよくあります。
このケースも、遺言さえあれば、相続人が煩雑な手続きをしなければいけない状況を避けられます。
被相続人に直系卑属(子供・孫・ひ孫等)がいないケースで、親が存命の場合は親が相続人になります!
被相続人に子供、孫、ひ孫等が一切いない場合で、被相続人の親が存命の場合は、親が相続人になります。
上の図では、被相続人(下段右)の配偶者(下段左)と両親(上段の二人)が相続人になります。
このケースの法定相続分は、配偶者が3分の2(6分の4)、残りの3分の1(6分の2)を親の人数で均等に割ります(6分の1ずつ)。
さて、この場合もやはり、先ほどと同じように遺産分割協議が必要になる可能性が非常に高いです。(もし相続財産に不動産があって、遺産分割協議をしない場合、嫁、姑と舅の三人で不動産を共有しなければいけません・・・。)
先ほどのように未成年はいませんが、今度は別の問題があります。
それは、両親のいずれかが認知症になっている可能性です。
もし、両親のうちいずれかが重度の認知症になっていた場合、その方がご自身で遺産分割協議をすることは法律上できません。
遺産分割協議をするには、裁判所に成年後見の申立てをして、その方に成年後見人をつけなければいけません。
成年後見人は裁判所が選任するのですが、司法書士、弁護士、社会福祉士等の専門家が就任するケースも多いです。
そして、選任された専門家の後見人は、認知症の方ご本人の最善になるように遺産分割協議をしなければならない為、その内容が必ずしも相続人全員の希望に沿う形になるとは限りません。
これも、被相続人が生前に遺言書を書いてさえおけば解決できる内容です。
被相続人に直系卑属(子供、孫、ひ孫等)も直系尊属(両親、祖父母、曾祖父母等)いないケースで、兄弟姉妹がいる場合は、兄弟姉妹が相続人になります!
被相続人の兄弟姉妹が相続人になるのは、被相続人に子供・孫・ひ孫等の直系卑属が一切いないケースで、且つ、両親・祖父母・曾祖父母等の直系尊属の全員が被相続人よりも先に死亡しているケースです。
上の図では、被相続人(下段右から三番目)の配偶者(下段一番左)、兄(下段一番右)と姉(下段右から二番目)が相続人になります。
このケースの法定相続分は、配偶者が4分の3(8分の6)で残りの4分の1を兄弟の数で均等に割ります(兄と姉がそれぞれ8分の1ずつ。)
※複数の兄弟が相続人になる場合で、そのうちの一人が異母(異父)兄弟のケースでは、異母(異父)兄弟の相続分は、他の兄弟の相続分の半分になります。
配偶者と被相続人の兄弟姉妹が共に相続人になるケースは、私の感覚で最も遺産分割協議で揉めるケースが多いです。
そもそも、被相続人の生前から配偶者と兄弟姉妹の仲が非常に悪いケースも少なくありません。
このケースでは、必ず遺言書を残しておくことをお勧めいたします。
奥さんに全財産を相続させたいのであれば、
「私の全ての財産を妻●● ●●に相続させる。 令和3年4月22日 遺言者●● ××」
という内容の遺言書を全文自筆で書いておけば、それだけで奥様を相続のトラブルから守ることができます。
法定相続人が一人もいない場合は・・・
最後におまけ的な感じですが、法定相続人がいない場合の話を簡単にします。
被相続人に法定相続人が一人もいない場合は、被相続人が生前に持っていた財産は、一定の手続を経た上で、最終的に国庫に帰属します。
被相続人が生計を共にしていた人や、被相続人の生前に被相続人の療養看護に努めた人など、一定の人は国庫帰属の前に『特別に縁故がある人』として裁判所に申し立てることによって財産の分与を受けることできる可能性もあるのですが、期限もあり、また裁判所の手続になるので一般の方にとってはどうしてもハードルが高く感じるでしょう。
また、申し立てたからと言って必ず財産の分与を受けられると約束されている訳でもありません。
この場合もやはり遺言書さえ書いておけば、財産を残したい相手に財産を渡すことができます。
まとめ
以上、読んでいただいたとおり、殆どのケースで遺言書の有無によって、残された大切な人の相続手続きの難しさも、ご自身の財産の行き先も全く変わってきてしまいます。
勿論遺言書だけで世の中にある全ての相続トラブルを完全に解決できるわけではないのですが、遺言書があることで避けることのできる相続トラブルは本当に沢山あります。
また、遺言書を書くことで、自分の財産を自分が本当に渡したい人たちに自分の望む形で残すことができます。
自分が亡くなった後に、自分の大切な人たちを相続のトラブルから守る為にも、自分の財産を自分の大切な人たちへ、自分の望む形で残すためにも遺言書を書いておくことを心からお勧めします。
「自分には、遺言書を書くのはハードルが高そうだなあ」と感じる方は、是非お近くの司法書士へご相談してみてください。