こちらの記事(一般社団法人の役員任期切れていませんか?)でもご紹介をしているとおり、一般社団法人の役員の任期は伸長することができず、気付かないうちに任期が満了してしまっていたという法人様からのご相談は多いです。
なんとなく「理事の任期は2年」「監事の任期は4年」というイメージはあるかと思うのですが、いつ役員の任期が満了するのかというは実際にはもう少し複雑な話です。
単に2年とか4年と考えてしまうと、特に設立時、新しく就任した直後の役員について任期満了のタイミングを誤解しやすいので注意が必要です。
このコラムでは、一般社団法人の役員の任期の考え方・確認方法・注意点についてわかりやすく解説していきます!
法律上の規定を確認!
まず、法律の条文でどのように規定されているのか、理事・監事それぞれ確認しておきましょう。
【理事の任期】
理事の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとする。ただし、定款又は社員総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
【監事の任期】
監事の任期は、選任後四年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとする。ただし、定款によって、その任期を選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとすることを限度として短縮することを妨げない。
『選任後〇年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時』とは?
先ほどの条文が役員任期を考える上での肝なのですが、はじめて見る人にとってはわかりにくいと思うので、かみ砕いて説明していきます。
『選任後』の意味するところ
この『選任後』という文言は、任期の起算点(いつから始まるのか)を示しています。『就任後』ではなく、『選任後』です。
「そんな細かいこと気にしなくてもええでしょう」と言われそうですが、意外と大事なので補足しますね。
たとえば、理事Aが次のような流れで就任したとします。
- 令和7年3月29日の臨時社員総会で、理事Aが選任された
- 令和7年3月31日に法人の決算日を迎えた
- 令和7年4月1日に理事Aが就任の承諾をした
この場合、任期の起算点は、令和7年3月30日です(民法140条の初日不算入の原則により、選任日の翌日が役員任期の起算日になります)。
「就任日」の令和7年4月1日ではないので、注意しましょう。
一見「だから何?」感がありますが、これは次に解説するところで、非常に重要な意味を持ちます。
『〇年以内に終了する事業年度』の意味するところ
理事の場合、役員の任期は、『二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時まで』でした。
では、2年以内に終了する事業年度とはいつのことでしょうか。
先ほどの理事Aの事例で考えてみましょう。
まず、事業年度の終了日とは決算日のことです。先ほどの法人は3月31日が決算日でした。
そして、Aの任期の起算日は、令和7年3月30日でした。
すると、次のようになります。
- 令和7年3月31日:1年以内に終了する事業年度 ✅
- 令和8年3月31日:2年以内に終了する事業年度 ✅
- 令和9年3月31日:3年以内なので ✖️
つまり、理事Aの任期は、令和8年3月31日の決算日に関する定時社員総会(一般的には法人税申告との兼ね合いで決算日から2か月以内に開催されます)で満了となってしまいます。
実質「1年ちょっと」で任期が切れてしまうことも!
ここが落とし穴です。
選任日が決算日の直前だと、たった数日の違いで任期が1年早く満了してしまうケースがあるのです(上記事例で『選任日』が「令和7年4月1日」であれば、令和9年3月期の定時社員総会まで任期があります)。
同様に設立時の役員についても設立日と初回の決算日が近いような場合は、やはり1年ちょっとで任期切れになります。
「理事の任期は2年」「監事の任期は4年」と考えていると、うっかりしている間に任期が切れてしまうことがあるということをご理解いただけたかと思います。
任期満了のタイミングを確認するには?
ここで、任期満了のタイミングを確認する方法を解説します。
まずは定款の規定を確認
まずは、定款で役員任期についてどのように定められているかを確認しましょう。
役員の任期は定款に必ず記載しなければならない事項とはなっていないものの、これを定款に定めていないケースはほぼないと思います。
定款の『役員』に関する章のうち、役員の任期の条文を確認します。
すると、「理事(監事)の任期は、選任後〇年以内に終了する事業年度のうち・・・」というような記載があるはずです。
もしも自分の法人の決算日がいつなのか把握できていない場合は、決算日についても併せて定款で確認しておきましょう。
決算日は、一般社団法人の定款に必ず記載の必要な事項です。『計算』に関する章に記載されているのが一般的です。
次に役員選任時の社員総会議事録を確認
次に役員選任決議をした際の社員総会議事録を確認しましょう。
法人の『謄本』ではなく、『議事録』を確認しましょう。
その理由は、法律で任期の起算点を『選任時』と言っているのに法人の謄本には『就任日』しか記載されていないからです。
理事甲が令和7年3月30日に選任されて4月1日に就任承諾した場合、謄本には次のように記録されます。
令和7年4月1日就任
一方、理事乙が令和7年4月1日に選任されて同日就任承諾した場合も謄本に次のように記録されます。
令和7年4月1日就任
まったく同じ登記記録がされていますが、決算日が3月31日の場合、理事甲と理事乙の任期は丸1年ズレることになります。
つまり、謄本だけみても任期の起算日はわからないのです。
(応用編)役員の任期短縮規定について
最後に応用編(といっても、めちゃくちゃ大事)として役員の任期短縮規定にも触れておきます。
理事の任期短縮規定について
最初にご紹介した理事の任期に関する条文に記載の「定款又は社員総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。」のとおり、理事の任期は自由に短縮することができます。
原則「選任後2年以内に終了する・・・」となっているものを単に「選任後1年以内に終了する・・・」とすることも勿論できますが、それ以外には次のような規定が入っていることが多いです。
- 任期満了前に退任した理事の補欠として選任された理事の任期は、前任者の任期の満了する時までとする。
- 増員により選任された理事の任期は、他の在任理事の任期の満了する時までとする。
1は補欠規定と呼ばれるものです。任期満了前に退任した理事の補欠として選任された理事の任期を退任理事の任期満了時までに短縮します。
2は増員規定と呼ばれるものです。理事Aの任期中に追加で理事Bが選任された場合、この規定があると理事Bの任期満了時は理事Aと同じタイミングになります。この規定がないと理事Aと理事Bの任期満了時点がズレてしまい、任期の管理が煩雑になるだけでなく、役員改選の手間と費用も増えてしまうのでこの規定を置いている法人は少なくありません。
監事の任期短縮規定について
理事の任期短縮規定が自由だったこと対し、監事の任期を短縮できるケースは次の2パターンに限られています。
- 「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとする」ことを限度として定款で任期を短縮する
- 「任期満了前に退任した監事の補欠として選任された監事の任期を退任した監事の任期の満了する時までとする」ことを定款で定める(補欠規定)
監事の任期は上記以外の方法で短縮することは禁止されています。また、いずれも必ず定款で定める必要があり、社員総会の決議で短縮することは禁止されています。
監事の任期を「2年以内に終了する・・・」に短縮し、更に補欠規定を置くことで理事と監事の任期を揃え、任期の管理が容易になるというメリットがあります。
定款で役員の任期満了のタイミングを確認する際は、必ずこれらの短縮規定があるかどうかも併せて確認するようにしましょう。
まとめ
今回のコラムでは、一般社団法人の役員の任期について
- 考え方
- 任期満了のタイミングの確認方法
- 注意点(短縮規定)
をご紹介しました。
役員の任期満了のタイミングを誤ると、過料の罰則を受けたり、最悪の場合はみなし解散の登記をされてしまったりと不利益を受ける可能性があるのでくれぐれも注意しましょう。
役員選任や登記の懈怠、みなし解散の登記は謄本にばっちり記録として残ってしまうので、対外的な信用力という意味でも望ましくありません。
任期満了のタイミングを把握して、適切なタイミングで改選の手続きを行っていけるようにしましょう。
役員改選の手続きについては、こちらのコラム(一般社団法人の理事改選|ケース別の手続き・必要書類・登記まで徹底解説)をご参照ください。
また、すでにみなし解散されてしまったという法人はこちらのコラム(みなし解散された一般社団法人を復活させる方法とその費用)をご参照ください。
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