はじめに|旧姓で活動してきた実績を、法人登記でも活かせます
「結婚で姓は変わったけれど、旧姓で長年活動してきた」
「これまでの実績が旧姓の名前に紐づいていて、新しい姓だけではピンとこない」
──こうした背景から、一般社団法人の設立にあたって「理事の氏名に旧姓を併記したい」というご相談が増えています。
実は、こうしたご希望に対し、登記簿上に旧姓を併記することは可能です。
たとえば、現在の戸籍上の氏名が「山田太郎」で、旧姓が「佐藤太郎」であれば、
山田太郎(佐藤太郎)
という形で、理事や監事の氏名を登記することができます。
本記事では、旧姓併記の制度概要と、実際に一般社団法人の設立時にどのような手続きが必要かを、司法書士の目線でわかりやすく解説していきます。
第1章|旧姓併記とは?一般社団法人でも登記できる?
商業登記規則の改正で旧姓併記が可能に
平成27年の法改正により、婚姻による氏の変更があった場合に限って、旧姓を併記することが認められるようになりました。
さらに、令和4年9月1日の商業登記規則改正では、旧姓併記の対象が拡大され、
婚姻以外(たとえば離婚・養子縁組など)による氏の変更に対しても、旧姓を併記することができるようになりました。
この制度は、株式会社だけでなく、一般社団法人や一般財団法人の役員登記にも適用されます。
実際の登記の記載形式
実務では、以下のような形式で旧姓が併記されます:
山田太郎(佐藤太郎)
※「山田太郎」が現在の戸籍上の氏名、「佐藤太郎」が旧姓時代の氏名です。
※カッコ内には旧姓を含めた氏名全体を記載します。
一般社団法人で有効な場面
旧姓併記は、次のようなケースで特に有効です:
- 旧姓で長年活動してきた実績があり、その名前で理事や監事として活動を続けたい場合
- 法人の口座開設や各種契約で、旧姓を使用したい場合
- 旧姓と現在の姓の両方を公的に明示しておきたい場合
たとえば、理事が旧姓で法人名義の口座を開設したいといったケースでは、金融機関から「登記簿上の氏名と一致していないため、旧姓では手続できない」と断られるのが一般的です。
しかし、登記簿に旧姓が併記されていれば、旧姓での氏名使用を認めてくれる金融機関もあります。
つまり、旧姓併記は「旧姓での対外的な手続を可能にするための公的根拠」として使える場面があるのです。
第2章|旧姓を併記して登記するための手続きと必要書類
旧姓併記は「申出」によって可能になります(現在は単独申出もOK)
一般社団法人の理事や監事の氏名に旧姓を併記するには、代表理事から法務局への「申出」が必要です。
申出がなければ、登記簿には戸籍上の氏名のみが記載されます。
かつては、旧姓の併記は「設立登記」、「就任による変更登記」や「氏の変更登記」など、
一定の登記と一緒でないと申出できない扱いでしたが、
🆕 現在では、「旧姓の併記」だけを単独で申出することが可能です。(単独申出の場合は、登録免許税は不要)
これは令和4年9月の商業登記規則改正による変更点で、実務でも意外と知られていません。
すでに役員として登記されている方でも、後から旧姓を追加することができるようになっています。
申出のタイミングは、以下のようなものがあります:
- 一般社団法人の設立登記申請時
- 理事・監事の就任登記(変更登記)の際(再任時もOK)
- 役員の氏の変更の登記の申請の際
- すでに役員として登記済の氏名に旧姓を追加したい場合(=単独申出)
必要な書類
旧姓を併記する登記を行うには、以下の書類が必要です。
① 旧姓の記載を裏付ける資料
- 戸籍謄本・除籍謄本等(旧氏から現氏までの変遷が確認できるもの)
- 住民票やマイナンバーカード、運転免許証に既に併記されている旧氏と同じ旧氏の併記を希望する場合は、これらの写し
② 旧姓の併記に関する申出書
申出書には、以下の事項を記載します:
- 法人の名称・主たる事務所の所在場所、法人の代表者の資格・氏名・住所・連絡先
- 旧氏を記録すべき役員の氏名
- 上記の役員について記録すべき旧氏
- 申出の年月日
様式はこちら(法務省公式PDF):
https://www.moj.go.jp/content/001379359.pdf
第3章|他の書類等との整合性
旧姓を併記した氏名で統一すべき書類
登記簿に旧姓を併記する場合、登記添付書類として作成する書類でも、表記を統一しておくとスムーズです。
以下のような書類には、旧姓併記した氏名での記載をするといいでしょう:
【設立時】
- 定款(設立時役員を定款で定める場合)
- 設立時役員の就任承諾書
- 設立時役員に関する設立時社員の決定書(定款で役員を定めない場合)
- 設立時代表理事の互選書(理事会設置法人で定款に設立時代表理事の定めがない場合)
【設立後】
- 役員選任の社員総会議事録
- 代表理事選定の理事会議事録や互選書
- 役員の就任承諾書
名刺やホームページの氏名表記について
名刺やホームページには、現在の氏と旧姓を併記する必要はありません。
旧姓で仕事をしたいようであれば、旧姓のみの記載でも問題ないです。
(むしろ、こうしたケースでこそ登記上旧姓を併記しておくことの実益があるといえるでしょう)
第4章|旧姓併記はあとから削除することもできます
旧姓を登記簿に併記したあとでも、「やはり削除したい」という場合には、代表理事からの申出により削除が可能です。
削除の理由は不問です。
まとめ|旧姓併記は「対外的な信用」と「実務の円滑化」に役立ちます
結婚などで姓が変わった方にとって、旧姓での活動実績を活かすことは非常に重要です。
一般社団法人の登記でも、制度を正しく活用すれば、旧姓を併記しておくことができます。
旧姓併記は義務ではありませんが、
- 金融機関での口座開設や契約時に旧姓を使って手続きするため
- 長年使ってきた旧姓で外部とやりとりするため
- 法人としての対外的な整合性を保つため
といった利点があります。
一般社団法人の設立について無料相談を承っています
当事務所では、一般社団法人の設立登記のご相談を無料で承っています。
設立手続きの際に旧姓併記のご希望があれば、勿論対応させていただきます。
また、既に設立している法人様で旧姓の登記をしたいというご相談もお待ちしております。
お気軽にご相談ください。
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